1. 都立中高一貫校の概要
東京都教育委員会のホームページによると、都立中高一貫校とは、「6年間の一貫教育の中で、社会の様々な場面、分野において人々の信頼を得て、将来のリーダーとなり得る人材を育成することを目的とする学校」とされています。
都立中高一貫校には、2つのタイプがあります。
・「○○高等学校附属中学校」という名称の併設型中高一貫校 |
どちらのタイプも、高校段階にあたる後期課程からの生徒募集を行っていないのが大きな特徴です。
そのため、中学段階(前期課程)から入学した生徒は、原則として無試験で後期課程へ進学することができます。
ここでは、都立中高一貫校の概要と、併設型・中等教育学校の違いについて詳しくご紹介します。
①都立中高一貫校一覧
都立中高一貫校は、下記の10校です。
・桜修館中等教育学校 |
加えて、区立の中高一貫校として、
・千代田区立九段中等教育学校 |
があります。
九段中等教育学校は区立学校ではありますが、区外からの生徒も受け入れているため、都立の中高一貫校と同じように数えられることが多いです。
②併設型と中等教育学校の違い
都立中高一貫校には、「中等教育学校」と「高等学校附属中学校(併設型中高一貫校)」の2種類があります。ここでは、2つの違いについてご説明します。
中等教育学校
中等教育学校は、中学校に相当する「前期課程」と、高校に相当する「後期課程」を一つの学校で一貫して行う学校です。6年間を通して同じ学校で学びます。
併設型中高一貫校
併設型中高一貫校は、中学校と高校が別の設置として存在しながらも、内部進学により6年間の一貫教育を行う学校です。私立の中高一貫校は多くの場合、この形式を採用しています。
都立中学校の生徒が接続先の都立高校に進学する場合には、原則として高校入試(一般選抜)は実施されません。
2. 都立中高一貫校の魅力と受験のメリット
なぜ、都立中高一貫校は話題に上ることが多く、多くの中学受験生を惹きつけるのでしょうか?それには、私立の中高一貫校とは異なる様々な理由があります。ここでは、都立中高一貫校ならではの魅力と、受験することのメリットをご紹介します。
①中高一貫校に通うことの魅力
中学受験といえば、特に都内であればその主流は私立の中高一貫校を受験するケースです。公立・私立を問わず、中学受験をして中高一貫校に通うこと自体にどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
高校受験がない
多くの中高一貫校では、中学からそのまま併設の高校や系列高校に進学できるため、高校受験が不要です。
学校によっては、進学に際して学習への取り組みや出席状況、生活態度などの一定の条件を設けている場合も少なくはありませんが、しっかり学校に通い、授業を受けたり提出物を出すことができていれば、条件をクリアすることは難しくはありません。
高校受験がないことで、先取り学習や応用学習に時間をかけることができるほか、部活動や学校行事、探究活動などにもじっくりと取り組めるという大きなメリットがあります。
特色あるカリキュラムでの学び
中高一貫校では、6年間を通じた一貫したカリキュラムを設計できるため、一般的な公立中学校とは異なる独自の教育内容が展開されます。海外研修を含む国際教育や探究学習、STEAM教育など、近年注目を集める学びが取り入れられている学校も多く、将来の進路選択の幅を広げることができます。
人間関係の醸成が期待できる
同じ学校で6年間を過ごす中で、同学年だけでなく異学年とのつながりも深まり、人間関係の幅が広がります。
成人を迎えるまでの人生の基盤とも言える期間を同じメンバーで過ごすことで、生涯に渡る人間関係を築くことが期待できます。
②都立中高一貫校ならではの魅力とメリット
私立中高一貫校もある中で、(千代田区立九段中等教育学校も含め)都立中高一貫校ならではの魅力やメリットとはどのようなものなのでしょうか。
教育費を抑えられる
私立の中高一貫校と比較すると、生徒様の教育費を圧倒的に抑えることができます。
東京都の調査によると、令和6年度の都内私立中学校181校の初年度納付金(授業料と入学金、施設やそのほかの納付金)の平均額は、総額1,009,362円です。また、中学から高校へ進学する際に、さらに入学金を支払う必要がある場合がほとんどです。
都立中高一貫校は、公立学校の扱いとなるため、授業料は無償。入学金も不要(※後期課程への進級時に5,000円程度が必要)で、前期課程(中学相当)では給食費もかかりません。
たとえば小石川中等教育学校の場合、
・施設・設備:0円 |
進学指導面での制度もよく整っており、塾に頼らなくとも、学校の指導で希望の進路達成を目指すという基本方針を立てている学校がほとんどです。学校の授業料や施設費はもちろんのこと、塾の費用も抑えられるとなると、保護者様にとっては大きなメリットとなるのではないでしょうか。
少人数で手厚い指導を受けられる
都立中等教育学校の1学年の定員は、最も多い白鷗高等学校附属中学校で200人、そのほかの都立中高一貫校は160名と、他の公立学校や私立学校と比較しても、学校規模としては比較的小規模です。
その分、教員の目がよく行き届くとともに、科目によって習熟度別・少人数の授業を展開するなどの工夫を行っている場合が多く、手厚い指導を受けることができます。
高い進学実績がある
独自の教育カリキュラムと手厚い指導によって、特に国公立大学への高い進学実績を誇っていることが、都立中高一貫校の魅力と言えるでしょう。
自分の考えを述べたり、思考錯誤を繰り返しながら作業を繰り返したり、複数の資料を比較したりするような適性検査に向けて培われた力は、入学後にそれらと親和性の高い探究学習によってさらに深められ、かつ、近年拡大している大学の総合型選抜に確実に結びついているのでしょう。
そうしたことから、有名私立中高一貫校や、難関都立高校とも肩を並べられるだけの進学実績があるのが都立中高一貫校です。
③受験までの過程にもメリットがある!
たとえ受験を途中でやめたり、不合格に終わったとしても、都立中高一貫校の受験に取り組む過程には多くのメリットがあります。
学校の授業を大切にする姿勢が育つ
都立中高一貫校の受験では、小学校での「各教科の学習の記録」の評定を点数化した「報告書」の提出が求められます。
中学受験を目指す生徒様の中には、塾での学習を重視するあまり、小学校での授業への取り組みが疎かになってしまう生徒様もいます。こうした習慣はなかなか変えることが難しく、せっかく志望校に合格できたとしても、授業に集中して取り組めなかったり実技科目がおろそかになり、結果として思い描いていた学校生活が送れない状況になってしまった生徒様もいます。
都立中高一貫校の受験では、学校活動全体において主体的に行動する姿勢や、基礎基本の定着が重視されるため、自然と学校の授業を大切にする習慣が身についていきます。このような姿勢は、志望校に合格できたかどうかに関わらず、その後の学校生活を豊かにし、将来にわたって大きな力となるでしょう。
柔軟な思考力と表現力が身につく
都立中高一貫校の適性検査では、各教科の学習内容を基にした教科横断的な思考や柔軟な発想、試行錯誤を重ねる忍耐力、分析力、そして何よりも、自分の考えを他者にわかりやすく伝える表現力が求められます。
適性検査に向けて身につけたこれらの力は、複雑で変化の激しい社会に柔軟に対応していくために重要な力であり、それが身につくという点においても、都立中高一貫校の受験には大きなメリットがあると言えます。
3. 都立中高一貫校の受験制度|適性検査・倍率・併願のポイント
ここでは、都立中高一貫校を目指すにあたり、私立中学校との入試の違いや併願のポイント、独自の試験科目である「適性検査」の内容、一般枠受験の倍率や人気校の傾向など、入学検査に関する情報を中心にご紹介します。
なお、小石川中等教育学校と白鷗高等学校附属中学校では「特別枠募集」が行われますが、各募集に関しては出願条件が一般枠募集とは別に定められていますので、各学校の募集要項等をご確認ください。
①私立中学校との入試の違い
都立中高一貫校と私立中学との入試には、大きく分けて2つの違いがあります。
(1)合否決定の仕組み
1つ目は、合否決定の仕組みが異なる点です。都立中高一貫校の一般枠募集では、小学校での「各教科の学習の記録」の評定を点数化した「報告書」と、入試当日に行われる「適性検査」の結果を総合的に評価して合否が決まります。
(2)入試日程
2つ目は、入試日程の違いです。都立中高一貫校の一般枠入試は、すべての学校で2月3日に一斉実施されます。
②受験科目の特徴
出題形式は学校によって異なり、都立中高一貫校で共同作成された問題を使用する学校と、独自作成の問題(一部のみ独自作成の場合も含む)を出題する学校があります。
一般的に、「適性検査Ⅰ」は読解を中心に、作文を含む国語的要素の強い問題が出題されます。「適性検査Ⅱ」は、算数・理科・社会の内容が出題されることが多いです。また、独自に「適性検査Ⅲ」を実施している学校もありますので、気になる学校の出題形式を確認しておきましょう。
適性検査では、短時間で多くの作業が求められるため、問題の意図を素早く把握し、粘り強く考え抜く力や、考え方を分かりやすく表現する力が重要です。
③倍率・人気校の傾向
都立中高一貫校と言えば、倍率が高いことでもよく話題に挙げられます。
2024年度の都立中高一貫校(10校)における一般枠募集の平均倍率は4.03倍でした。
併設高校での高校募集の停止により中学入試の定員が増えた影響などもあり、一時期に比べると倍率は下がり、近年は4倍程度で落ち着きつつありますが、それでも高倍率と言えます。
特に人気が高い学校は、
・三鷹中等教育学校:4.81倍 ・桜修館中等教育学校・小石川中等教育学校:4.41倍 ・両国高等学校附属中学校:4.38倍 |
などが挙げられます。
人気校の特徴としては、6年間の一貫教育が受けられることや、国際教育・ICT教育などの特色あるカリキュラム、部活動や学校行事が活発であることなどが評価されています。大学への進学実績だけでなく、「中高生らしい充実した学校生活」と「確かな学び」の両立を求める生徒に支持されていると言えるでしょう。
④私立中学校との併願について
都立中高一貫校を志望しつつ、私立中学校も併願される生徒様は毎年多くいます。私立中学校を受験する理由には、
・都立中高一貫校受験の練習 |
私立中学校では、原則として2科または4科での受験が一般的であり、都立中高一貫校とは異なる試験対策が必要です。ただし、いずれにしても学習の基礎が身についていなければ対応できない点は共通しています。
中には、都立中高一貫校受験者をターゲットにした、「適性検査型・公立型・思考力型」などと呼ばれる入試を実施している学校も多くありますので、2月1日・2日は都立中高一貫校の受験前の最終演習も兼ねて、そういった入試を受験することもおすすめします。
また、2月4日以降も入試をしている私立中学もありますので、様々な事態を想定して受験校と併願スケジュールを立てられるとよいでしょう。
4.都立中高一貫校に合格するための対策
11校それぞれに様々な特色とメリットがある都立中高一貫校。ここでは、入学検査を突破するためにどのような対策が必要なのか、特に「塾選び」に焦点を当ててご紹介します。
①中学受験用の塾に通う人はどれくらいいるか
ライターの実感値にはなりますが、都立中高一貫校の受験生の約8割が、通信教育も含めて何らかの塾や教材を活用している印象があります。特に倍率の高い学校や都市部の学校を志望する受験生ほど、通塾率は高めです。模擬試験や季節講習なども含めると、ほとんどの都立中高一貫校受験生が通塾経験があると言えるでしょう。
②どんな中学受験塾に通うことが多いか
多くのご家庭では、中学受験に必要な基礎力(国語・算数・理科・社会)を身につけつつ、都立中高一貫校向けの対策もできる塾を選んでいます。特に適性検査では、
・作文 ・実験結果や資料をもとにした記述 ・正解に至るまでの考え方の説明 |
都立中高一貫校を志望する生徒様の中には、私立中学受験対策のための塾と都立中学受験対策のための塾、両方に通う生徒様もいます。
「小石川中等教育学校コース」など、各学校の適性検査に合わせてカリキュラムを組んでいる塾も少なくありません。同じ塾でも校舎によってターゲットにしている学校が異なる場合もあるため、塾を選ぶ際は、生徒様の志望する学校への合格率を目安にするとよいでしょう。
③報告書対策も忘れずに!
都立中高一貫校では、小学校での「学習の記録(評定)」を点数化した「報告書」も合否に影響します。
報告書の評価対象となる学年は学校によって異なります。
・都立10校:小5と小6の2年間の成績 ・千代田区立九段中等教育学校:小4~小6の3年間の成績 |
また、報告書の配点比率は以下の通りです。
・桜修館中等教育学校・富士高等学校附属中学校・大泉高等学校附属中学校:総合得点の30% ・両国高等学校附属中学校・南多摩中等教育学校・三鷹中等教育学校・千代田区立九段中等教育学校:総合得点の20% |
このように、報告書の比重は決して小さくありません。適性検査対策と並行して、小学校での各教科の学習にも手を抜かず、バランスよく取り組むことが大切です。
5.都立中高一貫校を目指す際の注意点
都立中高一貫校の受験はどの学校も高倍率で、模試で良い判定が出ていても油断はできません。ここでは、万が一不合格になってしまった場合にどのような進路が考えられるのか、特に私立中学への進学を検討している方に向けてお伝えします。
①不合格になった場合の進路について |
①不合格になった場合の進路について
都立中高一貫校の試験に残念ながら不合格だった場合、主に以下の2つの進路が考えられます。
・地元の公立中学校に進学する |
「中学は公立で、高校受験で再チャレンジしたい」という生徒様もいらっしゃれば、「私立中学に進学したい学校がある」という生徒様もいらっしゃいます。ご家庭の方針や、生徒様ご本人の希望に合わせて、不合格となった場合の進路について事前に話し合っておくことが大切です。
②私立中学への進学の検討について
都立中高一貫校を第一志望とする場合でも、私立中学を受験するご家庭は多く見られます。理由としては、主に以下の2つが挙げられます。
・都立中高一貫校受験の「練習」として私立中学を受験する |
多くのご家庭では、この2つの理由の両方を視野に入れて、私立中学の受験を検討しています。
もし「都立中高一貫校に落ちた場合は私立中学校に進学したい」「地元の公立中には通いたくない」という気持ちがあるなら、偏差値や知名度だけで併願校を選ぶのではなく、「6年間をこの学校で過ごしたい」と思える学校を選ぶことが大切です。
実際に学校を訪れて、校風や教育方針がご家庭の考えや生徒様に合っているかどうかを確認したうえで、受験校を決めるようにしましょう。
③不合格でも、都立中高一貫校受験対策は無駄にならない!
ここで強調しておきたいのは、たとえ不合格になったとしても、都立中高一貫校の受験対策は決して無駄ではないということです。
都立中受験では、学校の成績(内申点)も重要視されるため、日頃の授業への取り組みや基礎学力の定着が求められます。その結果、受験を通して学習習慣が身についた生徒様は、中学進学後も内申点を維持しやすく、高校・大学受験でも力を発揮できるケースが多く見られます。
また、適性検査対策で培った思考力・判断力・表現力や、物事を関連付けて考える教科融合的な思考は、近年中学・高校で重要視されている探究型学習と親和性が高く、将来的に必ず活きてくるはずです。
まとめ|都立中高一貫校受験に向けて、今できる準備を始めよう
都立中高一貫校は、千代田区の区立中等教育学校である「九段中等教育学校」を含めて11校あります。
各学校とも、中高一貫教育の特性を活かした独自の教育カリキュラムを展開しており、高校受験にとらわれず、私立校よりも費用を抑えて充実した学びを受けられる点が魅力です。
また、学校の規模が小さめであることから、生徒様一人ひとりへのサポートが手厚く、高い進学実績を誇っている点も人気の理由のひとつです。
例年4倍程度という高い倍率となっており、入試は「報告書(小学校での学習の取り組み)」と、2月3日に実施される「適性検査」によって合否が決まります。適性検査では、一般的な中学受験問題とは異なり、思考力・分析力・判断力・表現力などが問われます。そのため、私立中学受験とは異なる対策が必要です。
高倍率ゆえに、合格できない可能性も高くなりますが、都立中高一貫校の受験に向けてしっかりと準備をした生徒様は、高校入試で結果を出せる生徒様が多い点が特徴です。
万が一不合格だった場合には、地元の公立中学に進学するのか、私立中学を併願するのかなど、事前にご家庭でしっかり話し合っておくことが大切です。
私立中高一貫校とはまた違った魅力を持つ都立中高一貫校は、各校がユニークな取り組みを行っています。ぜひ実際に説明会や学校見学に足を運び、生徒様と一緒に学校の雰囲気を感じてみてください。
志望校合格に向け、日々邁進される生徒様・保護者様を応援しています。
【参考文献】
・都立中高一貫教育校(中等教育学校及び併設型中高一貫教育校)とは
・令和7年度東京都立中等教育学校及び東京都立中学校入学者決定に関する実施要綱・同細目について
・都立高等学校等における授業料免除制度について
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